「内部通報の窓口を置かないといけないのは、従業員が何人からなのか」——結論から言えば、公益通報者保護法第11条 は、常時使用する労働者の数が三百人を超える事業者に義務として、三百人以下の事業者に努力義務として、同じ内容の措置を求めています。境目は「300人以下かどうか」で、条文上そこで変わるのは文末の書きぶり(「しなければならない」か「努めなければならない」か)だけです。
そして、実務でよく誤解されるのがその先です。努力義務にとどまる会社も、行政からの報告徴収・助言・指導・勧告の対象からは外れていません(同法第15条)。一方で、勧告に従わなかった場合の公表については、条文の書き方が第15条と異なります(同法第16条)。本記事では、この「どこまでが同じで、どこから違うのか」を、e-Gov法令検索で確認できる条文に沿って整理します。
第11条は「2つのこと」を求めている
まず押さえておきたいのは、公益通報者保護法第11条(事業者がとるべき措置)が求めているのは、窓口の設置ひとつではなく2つの別々の措置だという点です。
① 公益通報対応業務従事者を定めること(第11条第1項)
(事業者がとるべき措置)
第十一条 事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。
読みどころは、「定めなければならない」の対象が“窓口”ではなく“人”であることです。通報を受け、調査し、是正に必要な措置をとる——この一連の業務に誰が従事するのかを特定することが第1項の内容です。この「定められた人」が、次に説明する守秘義務(第12条)を負い、違反すれば罰金の対象になります。誰を従事者にするかを決めることは、その人に法律上の義務と罰則を負わせることと直結しています。
② 適切に対応するために必要な体制を整備すること(第11条第2項)
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
条文の文言は「必要な体制の整備その他の必要な措置」であり、「窓口を設置せよ」と書いてあるわけではありません。何をもって「必要な体制」とするかは条文からは一義的に決まらず、後述する第11条第4項に基づく指針に委ねられています。一般に内部通報窓口の設置はこの体制整備に含まれるものとして運用されていますが、具体的な中身は必ず指針と消費者庁の資料で確認してください。
従業員数で変わるのは「文末」だけ
従業員数の境目を定めているのが、第11条第3項です。
3 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
この条文の作りが要点です。第3項は300人以下の事業者を第11条の適用から外しているのではなく、文末の言い回しを読み替えているだけです。求められる措置の中身(従事者を定めること・体制を整備すること)は、規模にかかわらず同じものが書かれています。
| 常時使用する労働者の数 | 従事者の指定(第1項) | 体制整備(第2項) |
|---|---|---|
| 三百人を超える | 定めなければならない(義務) | とらなければならない(義務) |
| 三百人以下 | 定めるように努めなければならない(努力義務) | とるように努めなければならない(努力義務) |
なお、「常時使用する労働者」をどう数えるか(パート・アルバイト・派遣労働者の扱いなど)は、第11条の条文自体には書かれていません。自社が境目のどちら側かの判断が微妙な場合は、条文だけで決めず、消費者庁の資料と専門家に確認してください。
ここが分かれ目:第15条と第16条の書き分け
「うちは300人以下だから関係ない」と読んでしまいがちですが、行政の関与を定めた条文を並べると、関与の入口と出口で書きぶりが違うことが分かります。
報告徴収・助言・指導・勧告(第15条)——読み替え適用の場合を「含む」
(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第十五条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項(これらの規定を同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業者に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
かっこ書きに注目してください。「これらの規定を同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む」とあります。第3項の読み替えが適用される場合=300人以下の努力義務の事業者も、条文上、報告徴収・助言・指導・勧告の対象に含まれています。
公表(第16条)——そのかっこ書きが無い
(公表)
第十六条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項の規定に違反している事業者に対し、前条の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
第16条には、第15条にあった読み替え適用を含める旨のかっこ書きが置かれていません。条文は「第十一条第一項及び第二項の規定に違反している事業者」に対する勧告に従わなかった場合を公表の要件としています。隣り合う2つの条文で、一方にだけかっこ書きがある——この違いは、条文を読むうえで見落とせないポイントです。
実務的な受け止め方としては、「300人以下だから行政と無関係」ではなく、「入口(報告・助言・指導・勧告)には入るが、出口(公表)の書きぶりは義務規定の違反を前提にしている」と理解しておくのが条文に忠実です。自社のケースが公表の対象になり得るかどうかの最終的な判断は、条文の文言と指針、そして専門家の確認によってください。
通報を受ける人の守秘義務と罰金(第12条・第21条)
第11条第1項で「定められた人」には、第12条の守秘義務がかかります。
(公益通報対応業務従事者の義務)
第十二条 公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。
対象は「公益通報者を特定させる」事項であり、またその職を離れた後も義務が続く点が条文に明記されています。この義務に違反した場合の罰則が 第21条 です。
第二十一条 第十二条の規定に違反して同条に規定する事項を漏らした者は、三十万円以下の罰金に処する。
条文の主語は「漏らした者」です。会社の体制整備義務とは別に、通報対応にあたる担当者個人に対して罰則が置かれている構造になっています。従事者を指定するときは、この点を本人に伝えたうえで、通報者を特定させる情報がどこまで共有されてよいかの取扱いを社内で決めておく必要があります。
報告をしなかった場合の過料(第22条)
第二十二条 第十五条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
ここでも条文の射程を正確に読む必要があります。第22条の過料の対象は「第十五条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者」です。体制整備を怠ったこと自体に過料が科されると書かれているわけではありません。行政から報告を求められた場面での対応が、過料の分かれ目になります。
指針は、努力義務の会社にも向けられている(第11条第4項)
4 内閣総理大臣は、第一項及び第二項(これらの規定を前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において単に「指針」という。)を定めるものとする。
第4項にも、第15条と同じ「読み替えて適用する場合を含む」のかっこ書きがあります。つまり指針は、義務を負う事業者だけでなく、努力義務にとどまる300人以下の事業者がとるべき措置についても定められる建て付けになっています。「小さい会社向けの決まりは無い」のではなく、「同じ指針の中に、努力義務として書かれている」と読むのが条文に沿った理解です。指針の本体やQ&Aは、消費者庁の公益通報者保護制度のページで公表されています。
小さな会社がまず着手するなら、この順番
- 自社の「常時使用する労働者の数」を数える——300人を超えるかどうかで、義務か努力義務かが変わります(第11条第3項)。数え方が微妙なときは消費者庁の資料と専門家に確認します。
- 通報対応にあたる人を決める——第1項が求めているのは、まず「人を定める」ことです。兼務でも構いませんが、誰なのかを特定して社内で明確にすることが出発点になります(第11条第1項)。
- その人に守秘義務と罰則があることを伝える——通報者を特定させる情報を漏らせば、会社ではなくその人が三十万円以下の罰金の対象です(第12条・第21条)。
- 受付から是正までの流れを1枚に書く——受け付ける方法、調査する人、是正措置を決める人、記録の残し方まで。第2項が求める「体制の整備」は、この流れが決まっていることから始まります(第11条第2項)。
- 指針に照らして抜けを点検する——条文だけでは中身が決まらない部分は、第4項に基づく指針が具体化しています(第11条第4項)。
公益通報者保護法は改正が重ねられており、施行日によって求められる対応が変わります。自社の規程や運用が現行の条文と指針に沿っているかは、弁護士などの専門家と、e-Gov法令検索の条文を確認しながら進めてください。
「うちは義務か、努力義務か」も、根拠条文つきで調べられます
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内部通報体制の義務をことのりで調べるよくある質問
Q1. 内部通報窓口の設置が義務になるのは、従業員何人からですか?
公益通報者保護法第11条第1項 は公益通報対応業務従事者を定めることを、同条第2項は公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとることを、それぞれ事業者の義務として定めています。同条第3項は、常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者について、第1項の「定めなければ」を「定めるように努めなければ」、第2項の「とらなければ」を「とるように努めなければ」と読み替えると定めています。したがって条文上、義務となるのは常時使用する労働者の数が三百人を超える事業者です。
Q2. 300人以下の会社は、行政から何も言われないということですか?
そうではありません。同法第15条 は、内閣総理大臣は「第十一条第一項及び第二項(これらの規定を同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定の施行に関し必要があると認めるとき」に、事業者に対して報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができると定めています。かっこ書きに読み替え適用の場合が含まれているため、努力義務にとどまる事業者も対象から外れていません。
Q3. 勧告に従わないと公表されますか?
同法第16条 は、内閣総理大臣は「第十一条第一項及び第二項の規定に違反している事業者」に対し前条の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができると定めています。第15条にあった「同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む」というかっこ書きが、第16条には置かれていません。この書き分けが条文上の違いです。個別のケースの当てはめは専門家にご確認ください。
Q4. 通報を受けた担当者が通報者の名前を漏らした場合、罰則はありますか?
同法第12条 は、公益通報対応業務従事者またはその職にあった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないと定めています。同法第21条 は、これに違反して漏らした者を三十万円以下の罰金に処すると定めており、条文の主語は会社ではなく「漏らした者」です。
Q5. 行政から報告を求められたのに答えなかった場合はどうなりますか?
同法第22条 は、「第十五条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者」を二十万円以下の過料に処すると定めています。体制整備を怠ったこと自体を過料の対象とする書き方にはなっていない点が、読み取るべきポイントです。
出典(一次情報)
※本記事はAIによる調査支援を活用して作成した参考情報です。制度の詳細や最新の取扱いは、必ず一次情報および専門家にご確認ください。