「従業員から育休を取りたいと言われたが、まず何をすればいいのか」——結論から言えば、会社がやることは大きく3つです。①申出は原則として拒めないので受理する、②受けた旨などを速やかに本人へ通知する、③そもそも申出があってから慌てないために、妊娠・出産の報告を受けた段階での個別周知と意向確認、および雇用環境の整備を先に済ませておく——この3つです。
根拠になるのは「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(育児・介護休業法)です。①は 同法第6条、②は 同法施行規則第7条、③は 同法第21条第1項 と 同法第22条第1項 に定めがあります。
特に見落とされやすいのが③です。第21条第1項と第22条第1項は、どちらも文末が「講じなければならない」で、努力義務ではなく義務です。従業員数による適用除外の定めも、これらの条文には置かれていません。本記事では、e-Gov法令検索で確認できる条文に基づいて、申出を受けてからの手順と、事前に整えておく体制を整理します。
まず前提:育休の申出は原則として拒めない
育児・介護休業法第6条(育児休業申出があった場合における事業主の義務等)は、次のように定めています。
(育児休業申出があった場合における事業主の義務等)
第六条 事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。ただし、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる……
読みどころは、原則と例外の順序です。原則は「拒むことができない」。例外として、労使協定を締結している場合に限り、次のような労働者を対象から除外できます。
- 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
- その他、育児休業をすることができないことについて合理的な理由があると認められる労働者として厚生労働省令で定めるもの
ここで実務上いちばん多い誤解が、「入社1年未満だから育休は取らせなくてよい」という理解です。除外できるのは労使協定を締結している場合だけで、協定がなければ勤続期間を理由に断ることはできません。自社に労使協定があるか、その協定に除外規定が入っているかを、まず確認してください。
開始予定日の指定
また第6条は、育児休業開始予定日とされた日が、申出の日の翌日から起算して1か月(出生時育児休業、いわゆる産後パパ育休の場合は2週間)を経過する日より前である場合に、事業主がその期間内のいずれかの日を育児休業開始予定日として指定できる旨も定めています。急な申出でも「取らせない」という選択肢はなく、開始日を調整するという枠組みになっている点が要点です。
なお、育児休業そのものの枠組みは 同法第5条(育児休業の申出)に定められており、原則として子が1歳に達する日までの期間について、一定の要件のもとで分割して申し出ることができます。1歳6か月・2歳までの延長についても同条に要件が置かれています。個別のケースが延長要件に当たるかは、条文と労働局の資料で必ず確認してください。
申出を受けたら:会社から本人へ「速やかに通知」する
申出を受けた後の会社側の事務は、育児・介護休業法施行規則第7条(育児休業申出の方法等)に具体的に書かれています。ここを読んでおくと、社内の様式づくりがそのまま片づきます。
労働者が申し出る事項
労働者は、次の事項を事業主に申し出ることによって育児休業申出を行います。
- 育児休業申出の年月日
- 育児休業申出をする労働者の氏名
- 育児休業申出に係る子の氏名、生年月日および続柄等(出生前の場合は出産予定日と出産予定者の氏名・続柄)
- 育児休業開始予定日および育児休業終了予定日
- その他、過去の育児休業の取得状況や配偶者の育児休業の取得状況など、厚生労働省令で定める事項
申出の方法は書面の提出が原則で、事業主が適当と認める場合はファクシミリや電子メール等による送信も可能とされています。
会社が通知する事項
そして事業主側には、育児休業申出がされたときに、次の事項を速やかに労働者へ通知することが求められます。
- 育児休業申出を受けた旨
- 育児休業開始予定日(事業主が開始予定日を指定した場合はその日)および育児休業終了予定日
- 育児休業申出を拒む場合には、その旨およびその理由
通知は書面を交付する方法が原則で、労働者が希望する場合はファクシミリや電子メール等による送信も認められています。「受け取りました」と口頭で返して終わり、にはできないという点が実務のポイントです。あらかじめ通知書のひな形を1枚作っておけば、申出のたびに悩まずに済みます。
証明書類の取扱い
同じく施行規則第7条により、事業主は、申出に係る子の妊娠・出生・養子縁組の事実など、申出の内容に関する事実を証明できる書類の提出を労働者に求めることができます。また、申出の後に子が生まれた場合には、労働者は速やかに子の氏名・生年月日・続柄を事業主に通知することとされ、事業主は出生の事実を証明できる書類の提出を求めることができます。
証明書類は請求「できる」規定であり、必ず求めなければならないものではありません。取得のハードルを上げすぎない運用が望ましい一方、社会保険や育児休業給付の手続きにも関わるため、自社で何を求めるかをあらかじめ決めておくと、担当者による対応のばらつきを防げます。
本題:申出の前にやっておく2つの義務
ここからが、後回しになりやすいけれども義務である部分です。
義務1:妊娠・出産の申出を受けたときの個別周知と意向確認(第21条第1項)
育児・介護休業法第21条(妊娠又は出産等についての申出があった場合等における措置等)第1項は、次のように定めています。
(妊娠又は出産等についての申出があった場合等における措置等)
第二十一条 事業主は、労働者が当該事業主に対し、当該労働者又はその配偶者が妊娠し、又は出産したことその他これに準ずるものとして厚生労働省令で定める事実を申し出たときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者に対して、育児休業に関する制度その他の厚生労働省令で定める事項を知らせるとともに、育児休業申出等に係る当該労働者の意向を確認するための面談その他の厚生労働省令で定める措置を講じなければならない。
文末は「講じなければならない」です。「努めなければならない」という努力義務の書きぶりとは異なり、これは義務規定です。育児休業の申出があってからではなく、本人または配偶者の妊娠・出産の報告を受けた段階で動く必要があります。
ここで「知らせる」べき事項は、同法施行規則第69条の4(法第21条第1項の厚生労働省令で定める事項)に列挙されています。
- 育児休業に関する制度
- 育児休業申出等の申出先
- 雇用保険法に規定する育児休業給付および出生後休業支援給付に関すること
- ほか、同条に定める事項
「制度があることは就業規則に書いてある」では、この義務を満たしたことになりません。対象となった本人に、個別に知らせることが条文の求めるところです。あわせて、育児休業申出等に係る本人の意向を確認するための面談その他の措置が必要になります。
なお第21条には第2項以下も置かれており、同法第56条の2(公表)の条文では第21条第1項から第6項までが公表の対象として列挙されています。介護についても、対象家族が介護を必要とする状況に至った旨の申出があった場合の周知・意向確認が同条に定められています。自社の運用を点検する際は、第1項だけでなく条文全体を通して確認してください。
義務2:雇用環境の整備(第22条第1項)
育児・介護休業法第22条(雇用環境の整備及び雇用管理等に関する措置)第1項は、次のように定めています。
(雇用環境の整備及び雇用管理等に関する措置)
第二十二条 事業主は、育児休業申出等が円滑に行われるようにするため、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。
一 その雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施
二 育児休業に関する相談体制の整備
三 その他厚生労働省令で定める育児休業に係る雇用環境の整備に関する措置
ここも文末は「講じなければならない」で義務ですが、「次の各号のいずれかの措置」とされている点が実務上の救いです。3つ全部を同時に整える必要はなく、自社で回せるものを選んで確実に実施することが求められています。
第三号の「厚生労働省令で定める措置」は、同法施行規則第71条の2 に次のとおり定められています。
- その雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集および労働者に対する当該事例の提供
- 労働者に対する育児休業に関する制度および育児休業の取得の促進に関する方針の周知
小規模な会社であれば、研修を組むより「相談窓口は総務の誰それ」と決めて周知する、あるいは過去の取得事例を1枚にまとめて配る、といった形のほうが現実的なことも多いはずです。選んだ措置を実際に運用し、記録に残しておくことが、後から説明できる状態をつくります。
なお第22条第2項は、介護休業申出が円滑に行われるようにするための同様の措置を定めています。育児だけを整えて介護が手つかず、という状態にならないよう、あわせて確認してください。
努力義務にとどまる部分との区別
同じ法律の中でも、義務と努力義務は文末で書き分けられています。混同すると、やるべきことの優先順位を誤ります。
第21条の2(育児休業等に関する定めの周知等の措置)
同法第21条の2 は、育児休業および介護休業に関して、次の事項をあらかじめ定めて労働者に周知させるための措置を講ずるよう努めなければならないと定めています。
- 労働者の育児休業および介護休業中における待遇に関する事項
- 育児休業および介護休業後における賃金、配置その他の労働条件に関する事項
- その他厚生労働省令で定める事項
あわせて、労働者が育児休業申出等をしたときは、これらの事項に関する当該労働者に係る取扱いを明示するよう努めなければならないとされています。文末が「努めなければならない」であることから、これは努力義務です。
第22条第3項(復職後の雇用管理・能力開発)
同じく努力義務なのが 第22条第3項 です。
3 前二項に定めるもののほか、事業主は、育児休業申出等及び介護休業申出並びに育児休業及び介護休業後における就業が円滑に行われるようにするため、育児休業又は介護休業をする労働者が雇用される事業所における労働者の配置その他の雇用管理、育児休業又は介護休業をしている労働者の職業能力の開発及び向上等に関して、必要な措置を講ずるように努めなければならない。
復職後の配置や能力開発への配慮は、条文上は努力義務です。ただし「努力義務だから何もしなくてよい」と読むのは実務的には危ういところで、休業前後の配置をめぐる不満は、離職や紛争に直結しやすい部分です。義務ではないという整理と、対応の要否は別に考えてください。
守らなかった場合、行政はどう動くか
育児・介護休業法には、義務違反そのものに刑事罰を科す規定は置かれていません。行政の関与は、報告徴収・助言・指導・勧告、そして勧告に従わない場合の公表という流れになります。
報告徴収・助言・指導・勧告(第56条)
同法第56条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)は次のとおりです。
(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第五十六条 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
勧告に従わない場合の公表(第56条の2)
同法第56条の2(公表)は、勧告に従わなかったときにその旨を公表できると定め、その前提となる条文を長く列挙しています。列挙の中には、次のとおり本記事で扱った条文が含まれています。
……第二十一条第一項、同条第二項若しくは第三項(これらの規定を第二十三条の三第六項において準用する場合を含む。)、第二十一条第四項から第六項まで、第二十二条第一項、第二項若しくは第四項、第二十二条の二……の規定に違反している事業主に対し、前条の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
ここで確認しておきたいのは、列挙されているのは第22条の第1項・第2項・第4項であり、第3項は含まれていないという点です。前述のとおり第22条第3項は努力義務規定なので、公表の対象からも外れているという整理になります。逆に言えば、義務である第21条第1項と第22条第1項は、勧告に従わなければ公表され得るということです。
過料の対象は「報告」に関するもの(第66条)
同法第66条 は過料を定めています。
第六十六条 第五十六条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
過料の対象は、第56条に基づく報告をしなかった場合、または虚偽の報告をした場合です。第21条や第22条の措置を講じなかったこと自体が、直接この過料の対象になるわけではありません。とはいえ、労働局から報告を求められた場面での不誠実な対応は、それ自体が独立して過料の対象になります。報告徴収には、内容の当否とは切り離して、まず期限内に正確に応じるのが基本です。
まず着手するなら、この順番
- 労使協定の有無と中身を確認する——勤続1年未満の労働者などを対象から除外する運用をしているなら、その根拠となる労使協定が実在するかを確認します(第6条)。
- 申出書と通知書のひな形を1枚ずつ作る——通知書には「申出を受けた旨」「開始予定日・終了予定日」「拒む場合はその理由」を入れます(施行規則第7条)。
- 妊娠・出産の報告を受けたときの手順を決める——誰が、いつ、何を知らせ、どう意向を確認するか。制度・申出先・給付に関する情報を1枚にまとめておくと運用が安定します(第21条第1項、施行規則第69条の4)。
- 雇用環境整備の措置を1つ選んで実行する——研修・相談体制・省令で定める措置のいずれかで構いません。選んだものを実際に回し、記録に残します(第22条第1項、施行規則第71条の2)。
- 介護側も同じ目で点検する——第21条・第22条は介護についても定めを置いています。育児だけ整えて終わりにしないようにします。
育児・介護休業法は改正が重ねられており、施行日によって求められる対応が変わります。自社の就業規則や運用が現行の条文に沿っているかは、社会保険労務士などの専門家と、e-Gov法令検索の条文を確認しながら進めてください。
「これは義務か、努力義務か」も、根拠条文つきで調べられます
AI法令調査ツール「ことのり」なら、調べたいことを日常の言葉で入力するだけで、育児・介護休業法第21条のような根拠条文と出典リンク付きのレポートを数十秒で生成できます。条文の文末が「講じなければならない」か「努めなければならない」かまで、原文にあたって確認できます。
育休の申出への対応をことのりで調べるよくある質問
Q1. 入社1年未満の従業員から育休の申出がありました。断ってよいですか?
育児・介護休業法第6条 は、事業主は労働者からの育児休業申出を拒むことができないと定めたうえで、事業所の労働者の過半数で組織する労働組合(ないときは労働者の過半数を代表する者)との書面による協定があるときに限り、引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者などを対象から除外できるとしています。したがって、労使協定を締結していなければ、勤続1年未満であることを理由に断ることはできません。自社の協定の有無と、除外規定が実際に置かれているかをご確認ください。
Q2. 申出を受けたあと、会社から本人へ何を伝える必要がありますか?
同法施行規則第7条 は、事業主は育児休業申出がされたときは、①育児休業申出を受けた旨、②育児休業開始予定日(事業主が指定した場合はその日)および育児休業終了予定日、③申出を拒む場合はその旨およびその理由を、速やかに労働者へ通知しなければならないと定めています。通知は書面の交付が原則で、労働者が希望する場合はファクシミリや電子メール等による送信も認められています。
Q3. 妊娠・出産の申出を受けたときの面談は、努力義務ですか?
義務です。同法第21条第1項 は、育児休業に関する制度その他厚生労働省令で定める事項を知らせるとともに、育児休業申出等に係る労働者の意向を確認するための面談その他の措置を「講じなければならない」と定めています。文末が「努めなければならない」となっている 第21条の2 の周知の努力義務とは、性質が異なります。
Q4. 雇用環境の整備は、研修も相談窓口も全部やらないといけませんか?
同法第22条第1項 は「次の各号のいずれかの措置を講じなければならない」と定めており、研修の実施・相談体制の整備・厚生労働省令で定める措置のうち、いずれかを講じることが求められています。省令で定める措置としては、施行規則第71条の2 が、育児休業の取得事例の収集と労働者への提供、育児休業に関する制度および取得促進に関する方針の周知を挙げています。
Q5. 対応しなかった場合、罰則はありますか?
第21条・第22条の措置を講じなかったこと自体に刑事罰を科す規定はありませんが、同法第56条 により報告徴収・助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わなかった場合は 同法第56条の2 により公表され得ます。公表の対象条文の列挙には第21条第1項から第6項まで、および第22条第1項・第2項・第4項が含まれています。また 同法第66条 は、第56条による報告をせず、または虚偽の報告をした者を二十万円以下の過料に処すると定めています。
出典(一次情報)
- 🔗 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第5条(育児休業の申出)(e-Gov法令検索)
- 🔗 同法 第6条(育児休業申出があった場合における事業主の義務等)(e-Gov法令検索)
- 🔗 同法 第21条(妊娠又は出産等についての申出があった場合等における措置等)(e-Gov法令検索)
- 🔗 同法 第21条の2(育児休業等に関する定めの周知等の措置)(e-Gov法令検索)
- 🔗 同法 第22条(雇用環境の整備及び雇用管理等に関する措置)(e-Gov法令検索)
- 🔗 同法 第56条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)(e-Gov法令検索)
- 🔗 同法 第56条の2(公表)(e-Gov法令検索)
- 🔗 同法 第66条(過料)(e-Gov法令検索)
- 🔗 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則 第7条(育児休業申出の方法等)(e-Gov法令検索)
- 🔗 同施行規則 第69条の4(法第21条第1項の厚生労働省令で定める事項)(e-Gov法令検索)
- 🔗 同施行規則 第71条の2(法第22条第1項第3号の厚生労働省令で定める措置)(e-Gov法令検索)
- 🔗 育児・介護休業法について(厚生労働省)
- 🔗 育児・介護休業法のあらまし(厚生労働省)
- 🔗 【特設ページ】令和6年度改正育児・介護休業法(東京労働局)
※本記事はAIによる調査支援を活用して作成した参考情報です。制度の詳細や最新の取扱いは、必ず一次情報および専門家にご確認ください。