「パートさんには通勤手当を出していないが、これは問題になるのだろうか」——結論から言えば、手当に差をつけること自体が一律に禁止されているわけではありません。禁止されているのは、その手当の性質と目的に照らして「不合理」と認められる差です。
判断の枠組みは2つあります。1つは パート・有期雇用労働法第8条 の均衡待遇(不合理な待遇の禁止)、もう1つは 同法第9条 の均等待遇(差別的取扱いの禁止)です。前者は「差の合理性」を問い、後者は一定の条件を満たすパート・有期雇用労働者について「差をつけること自体」を禁じます。
そして実務でより重い意味を持つのが、同法第14条 の説明義務です。労働者から求めがあれば、待遇差の内容と理由を説明しなければなりません。「正社員だから」では説明になりません。本記事では、e-Gov法令検索で確認できる条文に基づき、判断の枠組みと実務の要点を整理します。
判断の枠組みは2つある
正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」です。手当の差を考えるとき、まず自社のケースがどちらの枠組みに当たるかを見分けます。
枠組み1:均衡待遇(第8条)——差が「不合理」でないか
パート・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇の禁止)は次のように定めています。
(不合理な待遇の禁止)
第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
この条文の読みどころは3つあります。
- 「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて」——待遇の総額で比べるのではなく、手当ごと・待遇ごとに個別に判断します。「トータルでは同じくらい払っている」という説明は、条文の構造に合いません。
- 考慮する3要素——①職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)、②職務の内容および配置の変更の範囲、③その他の事情。
- 「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」——3要素を機械的にすべて当てはめるのではなく、その手当が何のために支払われているのかから逆算して、考慮すべき要素を選びます。
つまり第8条は「差をつけるな」ではなく、「その手当の目的に照らして説明のつかない差をつけるな」という規定です。
枠組み2:均等待遇(第9条)——そもそも差をつけられない類型
同法第9条 は、より厳格な規律を置いています。
(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者……であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの……については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
要件は2つで、両方を満たす場合に限ってこの条文が適用されます。
- 職務の内容が通常の労働者と同一であること
- 雇用関係が終了するまでの全期間において、職務の内容および配置の変更の範囲も同一と見込まれること
この2要件を満たすパート・有期雇用労働者は「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」と呼ばれ、短時間・有期雇用であることを理由とした差別的取扱いが禁止されます。ここでは第8条のような「不合理かどうか」の判断は入りません。
実務上は、まず第9条に当たる人がいるかを確認し、当たらない場合に第8条で個々の待遇差を検討するという順序で見ていくのが分かりやすい整理です。
手当ごとに「何のための手当か」を書き出す
第8条が「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして」と定めている以上、実務の出発点は自社の各手当の目的を言語化することになります。就業規則や賃金規程に手当の名前しか書かれていない、という状態がいちばん説明に困ります。
厚生労働省は、待遇ごとの考え方について解釈や運用の資料を公表しています(厚生労働省「同一労働同一賃金に関するQ&A」、厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法について」)。そこで示されている考え方を踏まえると、手当は大きく次のように整理できます。
- 実費の補填や出勤の奨励など、雇用形態と結びつきにくい目的の手当(通勤にかかる費用の補填を目的とする手当など)——目的が雇用形態によって変わる理由に乏しく、差を設けるには説明が必要になります。
- 職務の内容や責任の程度に対応する手当(役職手当・職務手当など)——実際に職務や責任に違いがあれば、それに対応した差には説明がつきます。反対に、名称が違うだけで実態として同じ職務・同じ責任であれば、差の説明は難しくなります。
- 勤続や貢献に対応する待遇(賞与・退職金など)——目的をどう設計しているかによって、考慮すべき要素が変わります。
いずれの場合も、条文が求めているのは「その手当の目的に照らして、この差は説明できるか」という一点です。自社でまずやるべきことは、手当の一覧表を作り、それぞれについて「支給の目的」「正社員とパート・有期雇用労働者で差があるか」「その差の理由」の3列を埋めてみることです。埋まらない欄が出たら、そこが見直しの候補になります。
説明義務(第14条)——実務でいちばん効いてくる規定
同法第14条(事業主が講ずる措置の内容等の説明)は、3つの場面での対応を定めています。
- 雇い入れたとき——速やかに、第8条から前条までの規定により講ずることとしている措置の内容を説明しなければなりません。
- 労働者から求めがあったとき——通常の労働者との待遇の相違の内容および理由、ならびに待遇の決定に当たって考慮した事項を説明しなければなりません。
- 不利益取扱いの禁止——説明を求めたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはなりません。
この規定が実務で重いのは、説明を求められた時点で、差の理由を言葉にできる状態になっていなければならないからです。「正社員だから」「昔からそうなっているから」は理由の説明になりません。逆に言えば、前の節の一覧表を作って各手当の目的と差の理由を整理してあれば、そのまま説明の材料になります。
行政の関与——勧告・公表と過料
同法第18条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)第1項は、厚生労働大臣は雇用管理の改善等を図るため必要があると認めるときは、事業主に対して報告を求め、または助言、指導もしくは勧告をすることができると定めています。この権限は厚生労働省令の定めるところによりその一部を都道府県労働局長に委任できるとされており、実務上は所轄の労働局から連絡が来る形になります。
勧告に従わない場合の公表
同条第2項は、勧告に従わなかった場合の公表について定めています。条文が公表の前提として挙げている規定は次のとおりです。
2 厚生労働大臣は、第六条第一項、第九条、第十一条第一項、第十二条から第十四条まで及び第十六条の規定に違反している事業主に対し、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
ここで押さえておきたいのは、条文が列挙するこの範囲に第8条は入っていないという点です。均等待遇の第9条と説明義務の第14条は列挙されていますが、均衡待遇の第8条は列挙されていません。
ただしこれは「第8条は守らなくてよい」という意味ではありません。第8条は不合理な待遇差そのものを禁止する規定であり、また第14条の説明義務を通じて、差の理由を説明できるかが必ず問われます。説明できない差が残っている状態そのものが、紛争の火種になります。公表制度の対象条文に挙がっているかどうかと、対応の要否は別の話として整理してください。
報告をしなかった場合の過料
同法第30条 は、過料について次のとおり定めています。
(過料)
第三十条 第十八条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
行政から報告を求められた際に、報告をしない、または虚偽の報告をした場合は二十万円以下の過料の対象です。報告徴収への対応は、内容の当否とは別に、まず期限内に正確に応じることが求められます。
まず着手するなら、この順番
- 自社に第9条(均等待遇)に当たる人がいないかを確認する——職務の内容が同じで、かつ職務の内容・配置の変更の範囲も同じと見込まれる人がいるかどうか。ここに当たる場合は、手当ごとの合理性の検討ではなく、差別的取扱いの禁止が直接かかります。
- 手当の一覧表を作り、目的を書き出す——「支給の目的」「雇用形態による差の有無」「差の理由」の3列。理由が書けない手当が、見直しの優先候補です。
- 説明できる形に整える——第14条の説明義務に備え、口頭で聞かれてもそのまま答えられる粒度にしておきます。
- 規程に反映する——手当の目的が規程に書かれていないと、担当者が代わったときに説明が再現できません。
制度の見直しは賃金体系全体に波及します。自社の実態にどう当てはまるかは、社会保険労務士などの専門家と条文を確認しながら進めてください。
「この手当は差をつけていいのか」も、根拠条文つきで調べられます
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パートと正社員の待遇差をことのりで調べるよくある質問
Q1. パートには通勤手当を出していません。これは違法ですか?
一律に違法と決まるわけではありません。パート・有期雇用労働法第8条 は、手当ごとに、その待遇の性質および目的に照らして適切と認められる要素(職務の内容、職務の内容および配置の変更の範囲、その他の事情)を考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています。したがって、その通勤手当が何を目的とした手当なのかを起点に判断することになります。通勤にかかった費用の補填を目的とする手当は、目的が雇用形態によって変わる理由に乏しいため、差を設けるには相応の説明が必要になります。個別の判断は、厚生労働省の公表資料(厚生労働省「同一労働同一賃金に関するQ&A」)を確認のうえ、専門家にご相談ください。
Q2. 「正社員は責任が重いから」という理由で差をつけてよいですか?
パート・有期雇用労働法第8条 は考慮要素の一つとして「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」を挙げていますので、責任の程度に実際の違いがあることは考慮要素になります。ただし条文は「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」と定めているため、その手当の目的が責任の程度と関係している場合に限って説明として機能します。また、肩書だけが違い実態として同じ責任を負っているという状態では、理由になりません。
Q3. 待遇差の理由を聞かれたら、必ず答えないといけませんか?
同法第14条 は、短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、通常の労働者との待遇の相違の内容および理由、ならびに待遇の決定に当たって考慮した事項について説明しなければならないと定めています。あわせて、説明を求めたことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いも禁止されています。
Q4. 労働局から報告を求められたら、応じないとどうなりますか?
同法第30条 は、同法第18条 第1項の規定による報告をせず、または虚偽の報告をした者を二十万円以下の過料に処すると定めています。また同条第2項により、第六条第一項、第九条、第十一条第一項、第十二条から第十四条まで及び第十六条の規定に違反している事業主が勧告に従わなかった場合には、その旨が公表されることがあります。
出典(一次情報)
- 🔗 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 第8条(不合理な待遇の禁止)(e-Gov法令検索)
- 🔗 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 第9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)(e-Gov法令検索)
- 🔗 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 第14条(事業主が講ずる措置の内容等の説明)(e-Gov法令検索)
- 🔗 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 第18条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)(e-Gov法令検索)
- 🔗 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 第30条(過料)(e-Gov法令検索)
- 🔗 パートタイム・有期雇用労働法について(厚生労働省 都道府県労働局)
- 🔗 同一労働同一賃金に関するQ&A(厚生労働省・PDF)
※本記事はAIによる調査支援を活用して作成した参考情報です。制度の詳細や最新の取扱いは、必ず一次情報および専門家にご確認ください。