「うちは従業員が30人だから、ストレスチェックは関係ない」——そう理解している会社は多いと思います。ところが根拠条文にあたると、少し違う景色が見えてきます。実施義務を定めた労働安全衛生法第66条の10第1項には、従業員数の要件がひとつも書かれていません。条文は「厚生労働省令で定めるところにより」と、範囲の決め方を省令に預けているからです。

そのうえで、実務で広く言われている「常時50人以上の事業場が義務」という線引きは、厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」が示しているものです。さらに同じ行政の案内では、令和10年(2028年)4月1日から、常時使用する労働者が50人未満の事業場にも義務化されるとされています。この記事では、①義務の本体はどの条文か、②「50人」はどこから来ているのか、③実務でいちばん効く「本人の同意」と「不利益取扱いの禁止」、④罰則はあるのか、を条文にあたって順に確認します。

本記事は、AI法令調査ツール「ことのり」で実際に検索した結果(関連条文・出典リンク付き)をもとに編集した参考情報です。 今回の調査では、対象事業場の規模を定めているとされる労働安全衛生規則(厚生労働省令)の条文本体は取得できていません。そのため本記事では、法律の条文で確認できたことと、厚生労働省などの行政の解説で示されていることを、意図的に分けて書いています。自社が義務の対象かどうかの最終的な判断は、e-Gov法令検索の最新の条文と、管轄の労働基準監督署・産業保健総合支援センターにご確認ください。

義務の本体は、労働安全衛生法第66条の10第1項

出発点の条文です。労働安全衛生法第66条の10第1項は、事業者に対して次のように定めています。

(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第六十六条の十 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない

読みどころは2つです。

  • 文末は「行わなければならない」——「努めなければならない」(努力義務)ではありません。義務規定の書きぶりです。
  • 「厚生労働省令で定めるところにより」——検査を誰が、どんな方法で、どの範囲の事業場で行うかは、法律ではなく省令(労働安全衛生規則)に委ねられています。この条文だけを読んでも、何人からが対象かは分かりません

ストレスチェック制度は、労働者が自分のストレス状態に気づき、必要に応じて医師の面接指導につなげることで、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした仕組みです(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。

「常時50人以上」という数字は、法律の条文には書かれていない

ここが本記事でいちばんお伝えしたい点です。「50人以上」という数字は、上に引用した第66条の10の条文本体には出てきません。今回の調査では、対象事業場の規模を定めているはずの労働安全衛生規則の条文本体も取得できませんでした。

実務で「常時50人以上の事業場が対象」とされている根拠として確認できたのは、厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」および山梨労働局の案内の記載です。つまり条文(省令)と行政の解説はレイヤーが違い、今回たどれたのは後者までということになります。

紛らわしい「五十人」——施行令第5条は産業医の話

法令を検索していると、労働安全衛生法まわりで「常時五十人以上」という数字を持つ条文に行き当たります。労働安全衛生法施行令第5条です。

(産業医を選任すべき事業場)
第五条 法第十三条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。

ただしこれは産業医の選任義務(法第13条第1項)についての規定であって、ストレスチェック(法第66条の10)の対象を定めた条文ではありません。同じ「50人」でも、条文上の位置づけは別物です。「施行令第5条にストレスチェックの人数が書いてある」と読んでしまうと誤りになるため、引用するときは注意してください。

実務的な意味合いとしては、「50人以上か未満か」で会社の義務が切り替わると考えるより、まず自社が省令上どの区分に当たるのかを行政の窓口で確認するほうが確実です。条文の建て付け上、判断材料が省令と行政解説に分散しているためです。

令和10年4月1日からは、50人未満の事業場も対象になる(行政の公表)

今回の調査で複数の行政機関のページが一致して示していたのが、令和10年(2028年)4月1日から、常時使用する労働者が50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されるという点です(厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」山梨労働局の案内長野産業保健総合支援センターの案内鳥取産業保健総合支援センターの案内)。

ただし、今回の調査では改正後の条文本体そのものは取得できていません。施行日・対象・経過措置の詳細は、e-Gov法令検索の最新条文と厚生労働省の案内で必ず確認してください。現時点で言えるのは、「今は対象外だから何もしなくてよい」という状態が続く前提で考えないほうがよい、ということです。

準備という観点では、義務化を待たずに手を付けられることがあります。次に見る第2項・第3項の仕組み——結果は本人のもので、事業者が個人の結果を見るには同意が要るという設計を、先に社内で共有しておくことです。ここを理解しないまま制度だけ導入すると、従業員の不信につながりやすい部分だからです。

実務でいちばん効くのは第2項——本人の同意なしに結果を会社へ渡せない

労働安全衛生法第66条の10第2項は、結果の流れとその制限を定めています。

2 事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行つた医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない

条文が定めているのは次の2つです。

  • 結果は、検査を行った医師等から本人へ通知されるようにすること(事業者の義務)。
  • 本人の同意がない限り、医師等は個人の結果を事業者に提供してはならないこと。

「会社が全員の結果を集計して人事評価に使う」といった運用が条文と相容れないのは、この第2項があるためです。小さな会社ほど、実施者と人事担当が近い距離にありますから、誰が結果を見られるのかを最初に決めて明文化しておくことが、制度を機能させる出発点になります。

高ストレス者の申出と面接指導、そして不利益取扱いの禁止(第3項)

3 事業者は、前項の規定による通知を受けた労働者であつて、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものが医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない

面接指導は、会社が一律に実施するものではなく、要件に該当する労働者本人からの申出を起点に義務が発生する建て付けです。そして同じ項の後段に、申出を理由とする不利益取扱いの禁止が置かれています。別の条文ではなく同じ第3項に書かれている点は、実務上おさえておく価値があります。申出のハードルを下げなければ制度が回らない、という設計思想が条文に表れているためです。

面接指導のあと:記録・医師の意見・就業上の措置(第4項〜第6項)

面接指導を行ったら、そこで終わりではありません。第4項から第6項までが「その後」を定めています。

4 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない
5 事業者は、第三項の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない
6 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。

第6項の「就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等」は、医師の意見を勘案して、必要があると認めるときに講ずるものとされています。会社が独自の判断で配置を動かす根拠として使える条文ではない、という読み方が条文の順序(第5項で意見を聴く → 第6項で勘案する)から見て取れます。

罰則はあるのか——第120条の列挙に第66条の10は入っていない

「やらなかったら罰金ですか」という質問はよく出ます。労働安全衛生法第120条は、五十万円以下の罰金の対象となる条項を号ごとに列挙しています。今回の調査では、その各号に第66条の10は含まれていませんでした

ただし、これを「やらなくてよい」と読むのは誤りです。第66条の10第1項の文末は「行わなければならない」であり、努力義務ではなく義務だからです。罰則の有無と義務の有無は別の話で、義務である以上は行政指導の対象になり得ます。

守秘義務の条文には、第66条の10が名指しで書かれている

関連して、労働安全衛生法第105条は健康診断等に関する秘密の保持を定めており、その対象にストレスチェックが明記されています。

(健康診断等に関する秘密の保持)
第百五条 第六十五条の二第一項及び第六十六条第一項から第四項までの規定による健康診断、第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項の規定による面接指導、第六十六条の十第一項の規定による検査又は同条第三項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。

「第六十六条の十第一項の規定による検査」と「同条第三項の規定による面接指導」が、条文の列挙のなかに名指しで入っています。対象は実施の事務に従事した者——つまり検査の実施事務を担当した人であり、社内で誰にその事務を任せるかを決める際に押さえておくべき条文です。

まとめ:条文で確定できること/行政の解説で補うこと

  • 条文で確定できること——実施義務そのもの(第66条の10第1項の「行わなければならない」)、本人の同意なしに結果を事業者へ提供できないこと(第2項)、申出を起点とする面接指導義務と不利益取扱いの禁止(第3項)、記録・医師の意見・就業上の措置(第4項〜第6項)、第120条の罰則の列挙に第66条の10が入っていないこと、第105条の守秘義務の対象にストレスチェックが名指しされていること。
  • 行政の解説で補う必要があること——「常時50人以上の事業場」という対象範囲、令和10年4月1日からの50人未満への義務化。いずれも今回の調査では条文本体を取得できていないため、e-Gov法令検索と厚生労働省の案内で確認してください。

条文を自分で確かめたいときは

AI法令調査ツール「ことのり」なら、調べたいことを日常の言葉で入力するだけで、労働安全衛生法第66条の10のような根拠条文と出典リンク付きのレポートを数十秒で生成できます。今回の記事のように、「不利益取扱いの禁止は第何項か」「第120条の罰則の列挙に入っているか」まで、原文にあたって確認できます。

ストレスチェックの義務をことのりで調べる

よくある質問

Q1. ストレスチェックは従業員が何人からの義務ですか?

根拠条文である労働安全衛生法第66条の10第1項には、人数の要件は書かれていません。同項は「厚生労働省令で定めるところにより……検査を行わなければならない」と定め、具体的な範囲を省令に委ねています。実務で言われる「常時50人以上の事業場」という線引きは、厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」で示されているものです。条文と行政の解説はレイヤーが違うため、自社の該当・非該当を確認するときは両方を見てください。

Q2. 50人未満の事業場も義務になると聞きました。いつからですか?

厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」および各労働局・産業保健総合支援センターの案内では、令和10年(2028年)4月1日から、常時使用する労働者が50人未満の事業場にも義務化されるとされています(山梨労働局の案内長野産業保健総合支援センターの案内)。今回の調査では改正後の条文本体そのものは取得できていないため、施行時期と対象の詳細は、e-Gov法令検索の最新条文と厚生労働省の案内で必ずご確認ください。

Q3. ストレスチェックの結果を会社が見ることはできますか?

労働安全衛生法第66条の10第2項は、検査を行った医師等が「あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない」と定めています。結果はまず本人に通知され、事業者が個人の結果を知るには本人の同意が必要です。

Q4. 面接指導を申し出た従業員を、配置転換などで不利に扱ってよいですか?

労働安全衛生法第66条の10第3項の後段は「事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない」と定めています。申出を理由とする不利益取扱いは条文で明確に禁止されています。なお第6項の就業上の措置は、第5項で医師の意見を聴いたうえでそれを勘案して講ずるもので、条文の順序が「意見を聴く → 勘案する」となっている点も確認してください。

Q5. ストレスチェックをやらないと罰則がありますか?

今回の調査では、労働安全衛生法第120条(五十万円以下の罰金)の各号に第66条の10は含まれていませんでした。ただし第66条の10第1項の文末は「行わなければならない」であり、努力義務ではなく義務です。罰則の有無と義務の有無は別の話で、義務である以上は行政指導の対象になり得ます。

出典(一次情報)

※本記事はAIによる調査支援を活用して作成した参考情報です。制度の詳細や最新の取扱いは、必ず一次情報および専門家にご確認ください。

関連する「使い方」ページ

関連する法令コラム