結論:令和6年度 司法書士試験 午後の部 第19問(不動産登記法(所有権の移転の登記))で、ことのりは5記述のうち公式正解と一致したのは2記述で、記述ウ・エ・オを取りこぼしました。ことのりが導いた組合せは公式正解「ウエ」に絞り込めず、シリーズでも取りこぼしの多い回となりました。本シリーズの「外した回」です。うまくいった回だけでなく、外した回も隠さず公開します。
検証の方法
第19問は、不動産登記法(所有権の移転の登記)に関するアからオまでの5つの記述のうち「正しいものの組合せ」を選ぶ問題です。方法はシリーズ共通で、各記述を1つずつ、「次の記述は、現行法令に照らして正しいですか、誤っていますか。根拠となる条文を挙げて判定してください」という形で本番稼働中のことのりにそのまま入力し、返ってきた判定を法務省公表の正解と照合しました。プロンプトの工夫・再試行・人間による誘導はありません。
ことのりの判定結果:5記述中2記述が一致(記述ウ・エ・オを取りこぼし)
| 記述 | ことのりの判定 | 挙げた主な根拠条文 | 公式正解との照合 |
|---|---|---|---|
| 記述ア | 誤り | 不動産登記法76条の2 | ○ 一致 |
| 記述イ | 誤り | 不動産登記規則36条 | ○ 一致 |
| 記述ウ | 誤り | 民法876条の2第3項ただし書 | × 不一致 |
| 記述エ | 誤り | 登記先例(昭和33年5月10日民甲964号等) | × 不一致 |
| 記述オ | 正しい | 民法909条・登記先例 | × 不一致 |
各記述の解説
記述ア:ことのりの判定「誤り」(公式と一致)
記述:甲土地の登記名義人Aが死亡し、相続人がB・Cで遺産分割協議により各2分の1の持分を取得したとき、AからBへの相続を原因とする所有権の一部移転の登記と、AからCへの相続を原因とするAの共有持分の全部移転の登記とを、前後を明らかにして同時に申請することができる。
根拠条文:不動産登記法76条の2
相続を原因とする所有権移転登記は、共同相続人全員への相続として一件で申請するのが登記実務の運用で、『所有権の一部移転』と『共有持分の全部移転』の2件に分けて同時申請する形は認められていません。ことのりは『複数の登記を別々に申請する形式は適切ではない』として『誤り』と判定し、公式正解(誤り)と一致しました。
記述イ:ことのりの判定「誤り」(公式と一致)
記述:登記名義人である株式会社Aを吸収合併消滅会社、株式会社Bを吸収合併存続会社とする吸収合併がされた場合、甲土地について合併を原因とする所有権移転登記の申請では、登記原因証明情報として合併の記載のあるAの登記事項証明書を提供しなければならない。
根拠条文:不動産登記規則36条
会社法人等番号を提供すれば商業登記からの照会で合併の事実を確認できるため、登記事項証明書の提供は不要となります(不動産登記規則36条)。『必ず登記事項証明書を提供しなければならない』とは言えないため誤りで、ことのりも商業登記と不動産登記の要件を切り分けて『誤り』と判定し、公式正解と一致しました。
記述ウ:ことのりの判定「誤り」(公式と不一致)
記述:Aに保佐人B及び保佐監督人Cが選任されている場合において、BがAに自己所有の甲不動産を売却したとき、A及びBは、AB間の売買についてCの同意を証する情報を提供して、BからAへの売買を原因とする所有権移転登記の申請をすることができる。
根拠条文:民法876条の2第3項ただし書
ことのりは『保佐監督人には民法864条(後見監督人の同意権)が準用されていないため同意権はなく、利益相反行為には特別代理人(臨時保佐人)が必要』として『誤り』と結論しましたが、公式正解は『正しい』(=Cの同意を証する情報で申請可能)です。保佐人Bと被保佐人Aとの利益が相反する行為については、原則として臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりませんが、民法876条の2第3項ただし書により、保佐監督人がある場合はその限りではなく、保佐監督人Cが保佐人Bに代わって同意権を行使すれば足ります。ことのりは民法876条の3第2項が準用する規定範囲だけを見て、876条の2第3項ただし書による利益相反時の代替ルートを捉えきれませんでした。
記述エ:ことのりの判定「誤り」(公式と不一致)
記述:Aが死因贈与をしその執行者としてCを指定する旨の合意が公正証書でない書面でされた場合、Cが死因贈与を原因とするA→Bへの所有権移転登記を申請するときは、代理権限を証する情報の一部として、書面に押印されたAの印鑑証明書またはAの相続人全員の承諾書に押された印鑑証明書を提供しなければならない。
根拠条文:登記先例(昭和33年5月10日民甲964号等)
ことのりは『死因贈与執行者Cが指定されている以上、Cは法17条1号の代理権不消滅により単独で登記申請でき、Aの印鑑証明書や相続人全員の承諾書は不要』として『誤り』と判定しましたが、公式正解は『正しい』です。執行者の指定合意が公正証書でない書面でされた場合、その書面の真正性を担保するため、代理権限を証する情報の一部として、書面に押印されたAの印鑑証明書または相続人全員の承諾書に押された印鑑証明書のいずれかが必要とされるのが登記先例の運用です(昭和33年5月10日民甲964号)。ことのりは代理権不消滅の一般原則から筋の通った推論を組み立てましたが、公正証書でない書面による執行者指定の真正性担保の登記先例まで到達できませんでした。
記述オ:ことのりの判定「正しい」(公式と不一致)
記述:Aが死亡し相続人がB・Cで、Bのために不在者財産管理人Dが選任されている場合、CD間の遺産分割協議によりCが単独で甲土地を取得し、遺産分割を原因とする所有権移転登記を申請するときは、当該遺産分割協議についての家庭裁判所のDに対する許可があったことを証する情報を提供しなければならない。
根拠条文:民法909条・登記先例
ことのりは『不在者財産管理人による遺産分割は権限外行為(民法28条・27条・103条)に該当し家庭裁判所の許可が必要であり、その許可を証する情報は登記の添付情報として提供義務がある』として『正しい』と判定しましたが、公式正解は『誤り』です。誤りの理由は、家庭裁判所の許可情報の要否そのものではなく、登記原因の表現にあります。法定相続登記を経ずに遺産分割協議で相続登記をする場合、民法909条の遺産分割の遡及効により、登記原因は『相続』となり『遺産分割』とはなりません(『遺産分割』を登記原因とするのは既に法定相続登記がされた後の持分変更の場合に限られます)。したがって『遺産分割を原因とする所有権の移転の登記』という記述自体が誤りです。ことのりは家庭裁判所の許可情報の提供義務だけに着目し、登記原因の呼び分けの実務ルールを捉えきれませんでした。
この結果から言えること
- ことのりが外した記述ウ・エは、いずれも登記実務の運用や登記先例で細目まで決まっているが、条文本則の準用範囲や一般原則だけを追うと外れる論点でした。記述ウでは民法876条の2第3項ただし書(保佐監督人がある場合の臨時保佐人不要)を、記述エでは公正証書でない書面による執行者指定の真正性担保の登記先例(昭和33年5月10日民甲964号)を、それぞれ捉えきれませんでした。
- 記述オでは、家庭裁判所の許可情報の要否そのものは正しく理解した一方で、登記原因が『相続』ではなく『遺産分割』となっている表現の誤りに気付けませんでした。法定相続登記を経ずに遺産分割協議で相続登記をする場合の登記原因は『相続』というのが実務運用(民法909条の遺産分割の遡及効に基づく)で、条文には直接書かれていない登記実務の基本ルールです。
- 教訓は明確です。所有権の移転の登記は、条文の一般原則だけでなく、民法・登記先例・不動産登記規則が細かく調整する『実務の運用』で結論が決まる論点が多く、AIの条文解釈だけで結論を出したときは、必ず登記先例・登記研究で最終確認することが必要です。本記事はうまくいった回だけでなく、外した回も隠さず公開するシリーズ方針に沿うものです。
シリーズ累計成績(随時更新)
司法書士試験(不動産登記法など)の条文知識を問う問題で同じ検証を進めています。うまくいった回だけを選んで載せることはせず、外した問題も隠さず解剖して公開します。
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ことのりを無料で試すよくある質問
AIは民法と不動産登記実務の準用関係を正確に判断できますか?
本検証では、民法876条の2第3項ただし書という利益相反時の代替ルートを、ことのりは876条の3第2項の準用条文だけを見て捉えきれませんでした。民法と不動産登記の準用関係は複雑で、AIが枝分かれの一部だけを追うと外れることがあります。最終確認は条文(e-Gov)と登記先例で行ってください。
遺産分割協議に基づく相続登記の登記原因はどう決まりますか?
法定相続登記を経ずに遺産分割協議で相続登記をする場合の登記原因は『相続』となり、『遺産分割』ではありません。これは民法909条の遺産分割の遡及効に基づく実務運用です。一方、既に法定相続登記がされた後に遺産分割協議で持分を変更する場合は、登記原因は『遺産分割』となります。最終確認は登記先例で行ってください。